出版翻訳家の収入
出版翻訳家に支払われる金銭的対価は大まかに2種類あります。1つは「翻訳委託契約」による「翻訳料」、もう1つは「印税契約」による「印税」です。通常そのいずれか一方だけが支払われるのであり、両方支払われることはありません。そのいずれになるかは出版社側が提示することが多いですが、出版社によってはどちらを希望するか翻訳家に選ばせるところもあります。
いずれにしても翻訳家が翻訳した訳文の著作権は翻訳家に帰属します。ただし、「翻訳委託契約」の場合、別途、著作権譲渡契約を締結すれば、出版社が翻訳家から著作権を譲り受けることも可能です。その場合、出版社は著作権を譲り受けるわけですから、それ相当の「翻訳料」を支払うことになります。
それでは実際にどれくらいの収入になるのかを見ていきましょう。
まず「翻訳委託契約」の場合を見ていきましょう。「翻訳委託契約」とは、出版社が翻訳現行を「英文何ワード当たり何円」あるいは「訳文何語当たり何円」といったレートで買い取る契約のことです。したがって「翻訳料」を受け取るのは通常1回切りであり、たとえ翻訳書がミリオンセラーになったとしても、追加で支払われるお金はありません。
一見、翻訳家にとって非常に不利な契約と思えるかもしれませんが、レートが相場からかけ離れて低い場合を除けば、そこそこのお金にはなります。むしろ出版不況の昨今、重版になる可能性も低いので「翻訳料」を貰ったほうが多く貰えるというケースのほうが多いのではないかと思います。
筆者は3度「翻訳委託契約」で翻訳書を出したことがあります。支払いを受けた「翻訳料」は約60万、約100万、約150万でした。なぜこれだけ差があるのかといえば、単純に翻訳する分量の差です。当然、薄い本よりも厚い本のほうが多く貰えることになります。
ただし、同じ「翻訳委託契約」でも、稀に著作権の譲渡を望む出版社もあるようです。この場合は通常の「翻訳委託契約」よりも高額な「翻訳料」が支払われるようです。この場合は、訳者として自分の名前が出ないわけですから、当然といえば当然のことといえます。
次に「印税契約」の場合を見ていきましょう。「印税契約」とは、翻訳原稿の複製権の対価として印税が支払われる契約のことです。当然、たくさん複製されればされるほど(重版になればなるほど)たくさん印税が支払われることになります。
まずは初版印税の例を見ていきましょう。
定価1,500円の翻訳書を7%の印税で7,000部印刷された場合、1500円×0.07×7,000部=735,000円という計算になります。ただし、源泉徴収がなされますので、実際に振り込まれるのはその約9割となります。
定価1,200円の翻訳書を6%の印税で5,000部印刷された場合、1200円×0.06×5,000部=360,000円という計算になります。これも上記同様、実際に振り込まれるのはその約9割です。
このように支払われる印税の額は、本の定価、印税率、発行部数によって大きく変わってきますが、本の定価と発行部数は出版社が決定権をもっていますので、翻訳家が口を挟む余地はありません。また増刷の刷り部数も出版社が決めます。
印税率の相場は昔は8%が相場だったようですが、出版不況の今では6~8%のところが多いようです。ただし、新人翻訳家の場合や本がきわめて薄い場合は4%ということもないわけではありまえん。ただし、印税率は翻訳家が交渉できる唯一の条件ですから、納得できない場合は交渉してみるのがいいでしょう。
以上が大まかな印税契約の説明ですが、注意点を2つ挙げておきましょう。
一つは、出版社によっては、初版印刷部数のすべての印税ではなく、一部の印税しか払わないところがあることです。たとえば、初版印刷部数が7,000部だとしても、実際に初版印税として支払われるのはその半分の3,500部のみで、それ以上の印税は実際に3,500部を超えて売れた場合に支払うという条件になっていることがあります。
もう一つは、増刷になったときの印税が、印刷部数のすべてではなく、初版印刷部数を超えて売れた場合に、その実際に売れた部数に対してのみ増刷印税を支払うという条件になっていることがあることです。初版印刷部数が7,000部、2刷が3,000部の場合、実際に7,001部以上売れた場合に、増刷分の印税が支払われるということです。
出版社はこうしたお金の話を曖昧にしたまま翻訳家に仕事を依頼することがありますが、お金の話は往々にしてトラブルの原因になりますので、仕事を引き受ける際によく確かめておくことが必要です。