1級を突破できるのは1万人の中で何人か
英検・独検・仏検・伊検・中検の難易度を比較するとき、合格率だけを単純に比較するのは妥当とはいえない。
たとえば、伊検5級の合格率が44.9%であるのに対し、仏検準2級の合格率は52.7%もある。しかし、だからといっても仏検準2級のほうが簡単な試験なのかといえば、けっしてそんなことはない。仏検準2級のほうがはるかに難しいことは明白だ。というのも、伊検5級を受ける人は、少なくとも伊検に関していえば、何の選抜も経ていないのに対し、仏検準2級を受ける人の大半はすでに仏検3級に合格している人たちであり、仏検3級を受ける人の大半はすでに仏検4級に合格している人たちだからである。したがって、合格率だけで比較するのではなく、その母集団がどういう人たちかも考慮しなければ、難易度は推察できないだろう。
そこで今回は、母集団を「1つ下の級に合格した人」と仮定したうえで、5つの言語の各等級の比較を行ってみた。例えば、「伊検2級を受験する人は伊検準2級に合格している人」と仮定したのである。もちろん例外はあるだろう。というのも、併願も可能だし、留学から帰国した人が伊検準2級を飛ばして、いきなり伊検2級を受けることもあろうから。しかし、そんな例外をいっていたらキリがないので、あくまで実験的にこういう手法を採用したのである。
そして仮に1万人が受験したとして、はたして何人が通過するのかを各言語の各等級について調べてみた。
例を挙げてみよう。独検の場合、独検5級の合格率は94.3%であるから、独検5級を突破する人は1万人中9430人いることになる。その9430人の中で独検4級に合格する人は9430人に独検4級の合格率57.8%をかければ得られる。そしてそれは5451人ということになる。そしてその5451人を母集団として、独検3級を突破する人を計算すれば2992人になる…という具合に、最終出口である「1級」までたどり着くのは、はたして1万人のうち何人いるのか調べてみた。(単位:人/10000人、ただし小数第1位を四捨五入した)
堂々の1位に君臨したのは中検1級と英検1級である。なんと10000人の中でこの出口に到達するのは4人しかいないことになる。実に狭き門である。
3位は伊検1級の6人だ。伊検は入り口の5級ですでに10000人中4490人まで絞り込まれている。そしてその中で4級を突破するのが1845人だ。なんと独検3級の2992人、英検3級の3026人、仏検3級の3491人よりも遥かに伊検4級のほうが「狭き門」なのだ。こうして狭き門をくぐり抜けていくとさらに人数は減る。伊検3級突破する人は631人、伊検準2級を突破する人は208人、伊検2級を突破する人は39人。伊検は「2級」といっても、他の言語の「2級」とは桁違いに「狭き門」だ。
4位につけたのは仏検1級だ。これもまた狭き門だ。10000人のうち1級を突破するのは12人しかいない。あるフランス語学習者が1級は「すべての単語が出題範囲だ」と言ったのも頷ける。それくらい難しい。
面白いのは5位の独検1級の33人と伊検2級の39人が僅差であることだ。独検1級はかろうじて「1級」のプライドを保っているが、うしろを振り向けばすぐそばに伊検2級が待ち構えている、といった感じである。
7位から9位は「準1級」が続く。すなわち7位が英検準1級44人、8位が中検準1級98人、9位が仏検準1級115人。私が意外に思ったのが英検準1級だ。最近の英検準1級はけっこう難しくなったのだろうか。中検準1級や仏検準1級より「狭き門」だ。
面白いのは、独検は他の4つの言語よりも相対的に広き門となっていることだ。独検1級はかろうじて5位につけてはいるが、独検準1級は12位まで下がり、英検2級や伊検準2級よりも広き門となっている。
新約聖書にこういう聖句がある。
「狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入る者が多い。しかし、命に通じる門はなんと狭く、その道も細いことか。それを見いだす人は少ない」(ルカ13)
狭い門だからこそ、そこを通過した人には価値があるといえる。